プロローグ1

「父さんっ!!」
…今日も同じ場面で目が覚める。昨日と同じ夢だ。じっとりとした汗が気持ち悪い。
枕元に置いてあるメータイで時間を確かめると、まだ夜明け前だった。このまま横になっていても眠れそうにないので、諦めて起き上がることにした。どうせ今日は朝から忙しいのだ。
頭から熱いシャワーを浴びて、悪夢を振り払おうとするが、目覚める直前に見たの顔は、そう簡単には忘れる事ができない。
額が割れ、血みどろになった顔の下からカッと見開かれた父の目…何かを訴えているような、その目。
分からないよ、父さん。僕には分からない。父さんが何を言おうとしているのか、僕には分からない。
タオルで頭を拭きながら、ふと、父の部屋に入ってみることを思いついた。掃除ぐらいしてやるか。

僕が怒るので、滅多に電話をかけてこない母からケータイに着信があったのは、2日前のことだった。予備校を終えて、友人とコーヒーを飲みながら来週の入試について情報交換をしていた僕は、深く考えずにその電話に出た。
「嘉人! お父さんが、お父さんが!」
興奮して言葉にならない母の様子にあ然としながらも、とりあえず家に帰った。落ち着かせながら改めて母に話を聞くと、出張先で父が交通事故に遭い、亡くなったというのだ。家に連絡をくれた地元の警官は、「不審な点があるので、すぐにはお帰しできない」と言ったらしい。
父が亡くなったという事に対してまだ現実感がなかったが、とにかく警察の対応には納得が行かない。すぐに電話をして説明を求めたが、たらい回しにされ、埒があかなかった。
母は泣き続けていた。
昨日の午後になってやっと警察から連絡があり、今日、父は帰ってくる。そのまますぐにお通夜だ。夕べは、臥せってしまった母の代わりに、親戚のおばさんに手伝ってもらいながら準備に追われた。父の部屋のことなんか、思いつかなかった。

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