道頓堀イカスミ地獄1

クラゲの次は、イカだった。

軟体怪人ゲソノバと名乗るその巨大イカは…イカ臭かった。
ニセコの白樺林をイカスミで汚す[白樺→黒樺化計画]や、気温を上げて雪を溶かして雪崩を起こしたり、スキー客をがっかりさせたりする作戦など、本気なのか冗談なのかよく分からない、中途半端な悪事を繰り返していた。

そんなある日、僕は任務で大阪へと向かった。
いつもの賑わいを見せる道頓堀付近。真冬だというのに、大阪の人はまったく、パワフルだ。
混雑の中に戦闘員がいるかもと、付近をパトロールしていると、一段と人口密度の濃い場所があった。
「何かあったんですか?」
近くにいた人に聞いてみる。
「あっこに美味くて有名な屋台のたこ焼き屋があるんやけど、妙なヤツが因縁つけてて、たこ焼きが買えんらしいわ」
「妙なヤツ…?」
イヤな予感がする。人だかりを掻き分け、たこ焼き屋に近付く。
「ホンマ、迷惑やなぁ。余所でやって欲しいわ」
「なぁ、何であそこ、黒なってんの?」
「んで結局、たこ焼き買われへんの? ほなもう行こや」
「なんや、この辺臭いことない?」
「あれ何なん? コスプレ? 怪獣ショー?」
…やっぱり。たこ焼き屋の営業を妨害していたのは、イカだった。
「やめろ、やめてくれぇ! ワシのたこ焼きがぁ!」
中年の、店主と思われる男性が泣き叫んでいる。体格もよく、顔も怖そうだが、さすがに怪人を相手に立ち向かうことはできないらしい。
仕方がない、蹴散らしとくか。
「そこまでだ、ジャアック!」
「ゲゲ、またお前か、嘉人! 今日という今日は邪魔させんぞ!」
言いながらゲソノバはブーっと大量のイカスミを吐き出した。
ヤツのいる辺りの地面は、イカスミで真っ黒だった。イカスミを辿ると、たこ焼きの鉄板に続いていた。
「おっ、ヒーローの兄ちゃん、助けてんか。昼の稼ぎ時なのに、商売上がったりや!」
さすがは浪速の商人。身の危険よりも[ゼニ]らしい。
「なぜこんなことをする!」
「ゲッ! お前にオレ様の気持ちなんて分かるものか!」
「当たり前だ! 分かってたまるか!」
「そんなヤツはこれを喰らえっ!」
ブーっ!!
「うわぁっ!」

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