朝鮮人参を奪回せよ!1

日本中が韓流だ。TVドラマも映画も結婚相談所もエステも写真集も外国語スクールも旅行も音楽もダイエットも居酒屋も何もかも。
とは言っても波に乗っているのは圧倒的に女性で、我々男性は白けた目で見ている。決して僻んでいる訳でも、妬いている訳でもない。
韓国と聞いて思い浮かべるのはキサッカーだ。あの赤の軍団。大合唱。新大久保。巨人-阪神戦がいつも熱いように、日韓戦もなぜだか燃える。
その程度の認識しかなかった韓国だが、僕は任務でソウルへ行くことになった。盗まれた朝鮮人参を取り戻すために。

寒い。日本よりはるかに寒い。とにかく寒い。しかし、東大門や南大門といった市場は人々で賑わっている。スパイシーで香ばしい匂いがアチコチから立ち込め、冷えた体が温かい物を欲しがる。屋台でチゲを買い、熱々、辛々とすする。
一息ついたところでソウル地方警察庁に向かう。今回の任務は、朴刑事と一緒だ。朝鮮人参を強奪したのがジャアック戦闘員だったため、ヒーロー☆コネクションに協力依頼があったのだった。
生真面目にでーんと構えた庁舎に入り、受付けで名乗って朴刑事を訪ね…ココは韓国だ。ハングルなんて分かんないぞ。えーっと。
「アンニョハセヨ! えーっと…日本語がわかる方は…ってすでに日本語だよ!」
一人寂しく突っ込む。
「日本語、少し大丈夫です。日本人お客さん、たくさん来ます」
受付にいた女性警官はクスっと笑った後、そう言ってくれた。
「あ、えーっと、日本のヒーロー☆コネクションから来ました。嘉人いいます。朴刑事とお約束あります」
「ああ、ヒーロー☆コネクション、聞いてます。でもごめなさい、朴パトロール出てます。南大門にいます」
「南大門、今行って来ました。人たくさんで驚きました。チゲとてもおいしく、体温まりました」
「おいしかった、良かったー。ソウルまだまだおいしい食べ物たくさんあります。たくさん食べる、いいです」
「はい、楽しみです…あ、えーっと、南大門に朴刑事、いますね?」
「そうです。朴、有名人だからすぐ分かります」
「そうですか。では探してみます。ありがとうございました」
「行ってらっしゃい」
女性警官はニッコリと送り出してくれた。
すぐに南大門に戻る。しかし、いくら有名人といっても、人一人をこの雑踏から見つけるのは至難の業だろう。警察庁を出るまでの明るい気分は、外気の寒さと共に吹き飛んだ。
ひときわ威勢のいいオバちゃんの屋台の周りには、デジカメを持った観光客が集まっている。もしや…と思い、近付いてみた。
「やっぱり寒いねー」
「次どこ行く?」
「私、チヂミ食べたいなー」
思ったとおり、日本人ツアー客のようだった。ということはこのオバちゃん、日本語が通じるかもしれない。

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