ドキドキバレンタインデー3

白けた気分で再び大通り公園に着いた。先程のスタッフはいなかったが、代わりに少し離れたところで女性が1人、イベント会場の方を向いて佇んでいた。横顔のキレイな人だな…と思いながら見ていると、突然その女性が振り返り、目が合ってしまった。
「こんにちは」
「こ、こんにちは…あれ? どこかでお会いしましたっけ?」
見覚えがある気がして、思わず言ってしまった。言ってから気が付いた。思っても口にしてはいけないセリフだよな…と。案の定、
「ぷっ!」
噴かれてしまった。
「あ、いや、決してナンパなどではなく…」
あたふたとしている僕を見て、彼女は言った。
「ねぇ、イベントは明日よ」
「へ?」
「だってその格好…あれ? ヒーローショウなんてあったかしら?」
「あ、いえ、僕は、この世の正義を守るため、悪と戦う仮面の戦士、嘉人です!」
「仮面の戦士って…え? もしかして本物のヒーロー?」
「はい、一応…」
「まぁまぁ! 噂には聞いていたけど、本物に会うのは初めてだわ! 後でインタビューさせてもらってもいいかしら? あ、ごめんなさい、私は北海道どさんこテレビの十勝りらです。よろしくお願いします!」
東京や大阪では珍しがってもらえない。街をパトロールしていても、皆当たり前のように話し掛けてくる。ヒーロー☆コネクションのヒーローは、大分認知されていると思っていたが、ココ、北海道ではまだまだのようだった。う〜む、札幌仮面RXという地場ヒーローがいるのになぁ。ラーメン屋の余興でヒーロースーツを着ているとでも思われてしまっているのだろうか…?
とにかく、彼女がラーメン屋のオヤジさんが言っていた看板アナウンサーらしい。なるほど、好奇心いっぱいという表情にも、瞳は知的な光で輝いていた。
何にせよ、僕にとって都合がいい雰囲気になっていた。
「あの、怪しいヤツを見かけませんでしたか? 全身黒づくめで『イーイー』騒がしいヤツらなんですが」
「全身黒づくめ…」
「はい、この辺でカップルばかりが襲われているという情報が…」
「ちょっと待って! どうしてそれを知っているんですか? どさんこテレビの独占スクープだと思ってたのに…」
彼女は下唇を噛みながら、悔しそうに僕を睨む。睨まれても困る。でもその表情は、何と言うか、その…
「ヒーローさんなら仕方ないですね。私達だけでは解決することは難しいですし。黒づくめの人たちが現れ始めたのはここ数日です。昨晩辺りから、ススキノが重点的に狙われているようです」
やっとそれらしい情報を得る事ができた。僕はまだ何か言いたそうな十勝りらにお礼を言って、急いでススキノへ向かった。
「キャアーーーっ!!」
むっ、女性の悲鳴だ!
それから後はお決まりの展開だった。
「カップルのいちゃつきを止める、シャロン様のワガマ…いやいや、崇高な作戦を邪魔させるわけにはいかなイー!」
なるほど。
戦闘員が落としていったメモは、襲撃場所リストだった。次は…テレビ塔展望台だ!

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